Interview
神栖済生会病院
総合診療/内科医長
髙橋 弘樹(たかはし ひろき)様
これまで茨城県内の総合病院や診療所に勤務をしてきましたが、神栖済生会病院での診療の特徴は、医師一人が関わる医療の幅の広さにあると思います。急性期から慢性期、終末期までいろいろなフェーズで患者さんを診ることができます。救急搬送にも応じていますし、外来では慢性疾患にも対応。さらに訪問診療では、病院に通えなくなった終末期の患者さんの診療にも携わります。そのすべての段階に関わることができるのは、医師にとって大きな魅力です。
一般的な急性期病院では、急性期治療を終えたら患者さんが転院しますし、診療所では急変があれば急性期病院に依頼します。そうした途切れ途切れの診療になってしまうことが少なくありません。当院の総合診療科では、自分が担当していた患者さんが通院困難になれば、そのまま主治医として訪問診療を行うことが可能ですし、在宅で急変した場合の入院にも対応できます。より専門的な治療が必要な場合は、圏域を超えて高度急性期病院などに依頼することもありますが、いわゆるCommon diseaseは全て自分たちで診ています。それが、神栖済生会病院のような地域の中核となる総合病院で医療を実践する強みだと思います。一人の患者さんに対して、切れ目のない医療が提供できるのです。
神栖市には、急性期に対応できる病院が少なく、高度な専門医療を提供できる病院も不足していますが、現在神栖済生会病院では鹿島労災病院との再編統合により、救急・急性期病院として整備を進めている段階です。今、住民の皆さんが最も求めているのは、具合が悪くなったときに診てもらえる急性期医療の充実だと思いますが、実は慢性期や在宅医療、そして予防に関わる医療など、気付かれにくいところにもニーズや課題があります。
私が神栖済生会病院で働き始めて4年目になりますが、これまで他の医師たちと一緒に、この地域の医療の底上げを図ってきました。しかし、神栖市が抱える医療課題を解決していくためには、地域全体で取り組んでいかなければなりません。疾患の予防には、貧困、教育、家庭環境など、健康に関わる社会的要因が大きく影響しているからです。
神栖市若手医師きらっせプロジェクトは、行政と医療者がタッグを組み、神栖市の医療を良くしていこうとする取り組みです。行政と一緒に神栖市の在り方を考えていくことができるのは、私たち医師にとっても貴重な経験です。地域に対して医療者がどれだけ介入できるかが、今後はますます求められるのではないでしょうか。私自身、在宅医療を推進する事業や、地域の医療・介護関係の多職種研修会の実施、市民向けの公開講座など地域に関わる活動を行っています。神栖市は、病院の中の医療だけではなく、病院の外に出て、地域に役立つ医療を実践しやすい地域だと思います。
私は、もともとへき地医療に関わりたいという思いがあり、大学は青森県の弘前大学に進学しました。卒業後は青森県内の中核病院で初期臨床研修を受けたのですが、医師の少ない地域では自分一人でなんでも診療しなければならないという場面が多く、研修医が実践を通して全科にまたがる多様な経験を積める環境でした。その経験が今、神栖市での診療に活かされています。神栖市を含む鹿行医療圏も全国的にみて医師数が少なく、限られた医師数で様々な症例に対応しなくてはなりません。しかし、本来地域の医療機関で対応することが望ましいケースでも、「専門外で診られない」などの理由で遠く離れた病院へ行かなければならないことも少なくないのが現状です。そんななか、「まず何でも診る」という姿勢は、神栖市で働くうえでとても重要です。さまざまな状況に幅広く対応できるようになりたいという人には、ぴったりの環境だと思います。
神栖市は、数少ない人口が増加している都市でもあり、比較的若い人たちが多く暮らす街です。南側の農業・漁業地帯や北側の鹿島臨海工業地帯など、特色の異なる地域が一つの市の中にあるため、病院を訪れる患者さんもバリエーションに富んでいます。
地域としては、喫煙率が高く、健康に対する関心やリテラシーが決して高くないことも課題です。これらの課題に対して、私たち医療者がどこまでアプローチできるか。医学的な部分だけでなく、社会的な背景や心理的な側面まで考えながら、いかに意識や行動を変えてもらうかが重要だと考えています。
私が赴任したばかりの頃に比べると、神栖市若手医師きらっせプロジェクトの取り組みによって、若い医師たちがずいぶん増えました。院内の雰囲気にも活気があります。同じ年代の先生同士でコミュニケーションが取りやすく、診療科の垣根を越えて気軽に相談できるのも当院の良さ。まだまだ成長過程にある病院なので、自分で課題を見つけて、それを解決するために自ら働きかけることができます。組織としての小回りが利くので、何か新しいことを始めたいときに周りの人たちに声をかければ、現場レベルで動き出すことも難しくありません。研修医のプログラムも個々の希望に沿って柔軟に対応しています。
私は牛久市と神栖市の二拠点で生活していますが、当院で働く先生たちの中には、平日は神栖市で診療をして土日は東京に帰るという方もいらっしゃいます。神栖市若手医師きらっせプロジェクトでは、神栖市で働く医師たちへの支援制度が充実しており、生活拠点を東京や他の地域に置きながらでも働けます。医師の新しい働き方のモデルプランとして、ぜひ神栖市での勤務を考えてみてください。
神栖済生会病院の若手医師たち