Interview
神栖済生会病院 内科
小田 有哉(おだ ゆうや)様
私は自治医科大学を卒業後、茨城県立中央病院で初期研修を受け、なめがた地域医療センターに3年間勤務しました。行方市と神栖市は同じ鹿行地域。そのため神栖市が置かれている医師不足の現状については、以前から知っていました。医師として鹿行地域の役に立てればという思いで、2021年4月から神栖済生会病院の救急診療を担当しています。
もともと私は内科の医師でしたが、救急医療を学ぼうと思ったのは、なめがた地域医療センターでの経験がきっかけです。当時、私は医師になって3年目。しかし、一人で当直しなければならない状況で、夜間にバイク事故で救急搬送されてきた外傷の患者さんを助けることができませんでした。申し訳ないという気持ちを抱くと同時に、若手の医師が一人で対応しなければならない厳しい環境には危機感を覚えました。そうした経験から「救急を学び、その経験を生かして鹿行地域で医療を実践しよう」と決意したのです。
それから、救急医療に強みのある日本医科大学千葉北総病院で救急医としての経験を積み、その後に勤務した常陸大宮済生会病院では、週2回ドクターカーに乗務するなど、これまで多くの救急症例に携わってきました。神栖済生会病院に赴任してからは、できるだけ断らずに救急搬送を受け入れられるよう努力を続けています。その成果もあり、救急車の平均搬送時間が短縮され、病院の応需率アップにも貢献することができました。
現在、私が担当する救急診療では、重症の交通外傷の患者さんや工業地帯で発生するケガなどの労災の患者さんを多く診ています。他の病院ではあまり診療することのない破傷風の患者さんを診る機会もありました。そうした救急診療に対応しながら、より専門的な医療が必要だと判断すれば三次医療機関へとつなぐ役割を果たしています。
茨城県が力を入れて取り組んでいる「Join」というクラウドシステムの導入によって、以前に比べると当直医の負担は軽減されました。このシステムを使うと、脳卒中の患者さんのレントゲンやCT画像を専門の医師に送ることができ、その場ですぐに指示を仰げるのです。専門医が病院内にいないときでも相談できるので、当直医にとっては心強いシステムです。
当院には医師になって10年目前後の若い先生たちが多く、院内の雰囲気にも活気があります。医局の中でもさまざまな症例について相談したり、画像を見ながら話し合ったりすることができる環境です。救急で受け入れた患者さんのその後の治療について、各診療科の先生にお願いする際にもスムーズな連携がとれています。また、「救急について勉強したい」という熱意のあるスタッフが多く、院内で看護師向けの講習会を開くなど、スタッフのスキルアップにも取り組んでいます。
研修医や若い先生たちにとって、神栖市は医師がスキルアップできる環境が整っている地域だと思います。神栖市若手医師きらっせプロジェクトでは、「医師Uターン推進事業」や「指導医等赴任手当支給事業」、「指導手当支給事業」など、指導医を呼び込むための施策にも積極的です。医師を育てるためには、まずは指導医がそろっていなければなりません。きらっせプロジェクトはそこに力を入れているので、しっかりした指導医のもとで安心して学ぶことができるのです。若い医師たちは、神栖市でさまざまな経験を積むことにより、医師としてのやりがいを感じられるのではないでしょうか。自分で考えながら、患者さんを最後まで診る。ここでは、そうした医師としての自覚を持って診療ができるはずです。
地域医療において、行政との連携は重要だと思います。私は今後、消防と連携をとりながら、この地域の病院間をつなぐ救急ネットワークの一層の充実に協力し、さらなる救急体制の強化を目指していきたいと考えています。また、ドクターヘリに要請ができない夜間帯の救急医療をどうしていくかも課題です。神栖市は特に交通事故が多いので、現場にかけつけて早期に医療が介入できるように、ドクターカーの運用に向けた働きかけもしていきたいです。
神栖市は茨城県内でも数少ない、人口が増加している地域です。子どもの医療費の助成など、子育て世帯を支える施策が充実しています。私には3人の子どもがいますが、休日には家族と一緒に海辺に出かけてリフレッシュしています。プライベートも楽しめるので、子育て世代にはおすすめの地域です。
神栖市の医療に関わるようになってから、私がモットーとしているのが「つなぐ」こと。病院内での診療科を超えた横のつながりもそうですし、救急診療を受ける病院の窓口として地域とのつながりも意識しています。そしてもう一つ、この地域の医療を次の世代に「つなぐ」ことも大事だと思っています。そのために学校教育にも積極的に関わっていきたいです。先日は市内の中学校に行き、救命処置についての講座を開きました。医師を育てるだけではなく、地域の小中学生に向けて医療教育をしていく。私たち医師が、地域に出て行くことが求められているのではないでしょうか。これからもこの地域の医療をより良くしていくために、力を尽くしていきたいと思います。
神栖済生会病院の若手医師たち