Interview
私が勤務する白十字総合病院は、鹿島臨海工業地帯のちょうど真ん中に位置しています。地域の基幹病院として急性期から慢性期までの一貫した医療を提供するとともに、特別養護老人ホームやケアハウス、訪問看護ステーションなど、介護分野まで総合的にカバーしながら、地域の「医療・予防・介護」に貢献しています。当院の健診センターでは、出張健診も含めると年間で4万2千人の健康診断を実施、予防にも力を入れているのが特徴です。特に企業健診は400社以上の企業と委託契約を結んでいて、そのうち約50社には産業医を派遣して業務を行っています。そうした日々の業務を通して、この地域の健康を支える役割を担っているのです。
ここ10年ほどで産業医の数は増えましたが、「産業医をしてほしい」という要望はまだまだあり、マンパワーが足りていないのが現状。産業医として活躍できる場ですので、ぜひ若い先生たちに来てもらいたいと思います。企業健診を積極的に行っているからこそ、予防的な観点から早い段階で医療が介入できる。それも当院ならではの良さではないでしょうか。当院には18人の常勤医が勤務していますが、診療科の垣根なくお互いに何でも相談できる関係です。地元出身の先生も多いですが、他県からいらした先生でもそうしたコミュニケーションが緊密な病院なので、すぐに馴染めると思います。
鹿嶋市で生まれ育った私は、地元の清真学園高校から九州にある産業医科大学に進みました。大学には産業医コースがあり、卒業後はすぐに産業医として日立製作所に入所。はじめの2年間は、日立総合病院で消化器内科を中心に臨床研修を受けました。それから10年間は、日立製作所の中にある日立健康管理センタで産業医として勤務し、2006年に白十字総合病院に赴任しました。母が鹿嶋市で一人暮らしをしていたので「いずれは地元で」という気持ちがあり、ここならば臨床に関わりながら産業医としてのこれまでの経験も活かせるだろう、と思ったのがきっかけです。当院には産業医資格の取得をめざす先生も多く、職場環境のチェックを行う職場巡視や、企業で開催する安全衛生委員会についての相談などを受けることがよくあります。その際に、一緒に考えることができるので、産業医の実務経験が活かされています。
当院に勤務してもう14年になりますが、医療にも限界があり、この世界に身を置くと究極は病気を作らないこと、産業保健はそれができる分野だということに行きつきます。予防医学には沢山の魅力がありやりがいを感じますが、まだ病気を発症していない健診受診者の方々には中々理解されない点が多いのも事実です。そこで今は臨床中心に身を置き、自分の手で検査治療できる喜びを感じながら、厳しい現実、辛さなどを目の当たりにし、疾病予防の大切さを具体的に健診受診者に示し、産業保健に活かすことができていると思います。
神栖市若手医師きらっせプロジェクトの活動を通して、地域の中での病院・クリニックとのつながりはさらに強くなっています。2020年9月にはプロジェクトの一環として、産業医認定資格の取得をめざす「産業医学前期研修会」が開催されましたが、私も来年の3月にかけて行われる後期研修で講師を務める予定です。これだけ若手の医師の育成をバックアップする体制が整っている市は、全国的にみても珍しいのではないでしょうか。私たちが力を合わせて神栖市の魅力を発信していくことが、この地域の医療を活性化させる、一つのきっかけになればうれしいです。
現在、当院では日本医科大学、東京医科大学の地域医療研修の協力病院として、初期臨床研修医の受け入れを行っています。研修医は、神栖市若手医師きらっせプロジェクトの産業医研修にも参加できるので、産業医に興味がある方にはおすすめです。当院には実際に産業医として活躍している医師が、私も含めて6人いますので、実務をしっかりと学ぶことができます。専門研修についても、既に外科、産婦人科、脳神経外科で、また新たに内科では、茨城県立中央病院と土浦協同病院のプログラム連携施設として研修医の受け入れ体制を進めていますので、ぜひ来ていただきたいです。臨床経験の豊富なベテランの医師が多く、研修医に対して診療科の垣根を超えた指導を行っているのが特徴です。
地域医療の研修は1~2カ月ですが、研修医たちには十分この地域の良さが伝わるようで、研修が終わる頃に「次は外来や当直の手伝いに来て欲しい!」と声をかけると、「ぜひ喜んで!!」と言ってくれます。一度、この地域の医療を体験したからこそ、魅力に気づいてもらえる。そうした研修医たちとのつながりも大事にしていきたいと思っています。また、当院にはUターンで神栖市に戻っていらした医師が多く勤務していますが、今後はそうした地元にゆかりのある先生たちが戻りやすいような道筋も立てていきたいです。
神栖市は気候も穏やかで住みやすい地域。海が近く、新鮮な魚をはじめとした美味しい食べ物がたくさんあります。休日に山登りをしたり、バンド演奏をしたり……、「働くときは真面目に、余暇は楽しむ」という先生が多い印象です。鹿島アントラーズのホームタウンでもあり、サッカーが盛んな地域ですので、地域の方たちとスポーツを通した交流をしているスタッフもいます。ぜひこの地域の魅力を感じながら、医師としてのやりがいや自分ならではの楽しみを見つけてほしいと思います。